2026年6月27日土曜日
世界のバグを見つめる和風エルフ
雨上がりの交差点に、ひとりの和風エルフが立っていました。
そこは、どこにでもありそうな日本の街です。
電柱があり、信号機があり、右側には明るいコンビニがあり、濡れた道路には夕暮れの光が映っています。
けれど、その日は何かが少しだけおかしかったのです。
空の色が、いつもの夕焼けではありませんでした。
金色の雲の奥に、夜の藍色が混ざり、そのさらに奥には星のような光が無数に散っていました。
まるで昼と夕方と夜が、同じ画面に重なってしまったようでした。
水たまりには、街の景色だけではなく、空の奥にあるはずの星まで映っていました。
信号機の光は静かに灯っているのに、時間だけが止まったように動きません。
電線は空を切り取る線のように張りめぐらされ、その向こう側に、見えてはいけない別の世界がにじんでいるようでした。
彼女は、その異変に気づいていました。
黒い髪を背中に流し、淡い白紫の着物をまとったまま、振り返ることなく空を見上げています。
街の人々が気づかずに通り過ぎてしまう小さな違和感。
水面にだけ現れる星。
信号の光に混ざる不自然な青。
雲の隙間からこぼれる、現実とは少し違う光。
それらは、世界に起きた小さなバグのようでした。
大きな爆発も、崩れるビルも、叫び声もありません。
ただ、いつもの街がほんの少しだけ、別の法則で動いている。
その静かな異常こそが、この景色を美しく、そして少し不思議に見せているのだと思います。
水たまりに映る彼女の姿は、本当にそこに立っているものなのか。
それとも、世界のほころびが見せている幻なのか。
誰にも分かりません。
彼女だけが、その境界線の前に立っています。
現実の街と、バグによって開きかけたもうひとつの世界。
そのあいだで、彼女は静かに空を見つめているのです。
コンビニの明かりはいつも通りなのに、足元の水面には宇宙のような光が揺れています。
交差点はただの交差点なのに、まるで世界の裏側へ続く入口のように見えます。
世界のバグは、恐ろしいものばかりではないのかもしれません。
それは、普段なら見えないものを一瞬だけ見せてくれる、静かなひび割れのようなものです。
雨上がりの街。
夕暮れと夜が重なる空。
水たまりに映る星の光。
その中に立つ和風エルフの後ろ姿は、世界の異常を見つけてしまった案内人のようでした。
もしこの街に本当にバグが起きているのなら、彼女はきっと、その先にある答えを見つめているのでしょう。
そして私たちは、その背中越しに、ほんの少しだけ壊れた世界の美しさを見ているのです。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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