2026年7月4日土曜日

夕暮れの街は、いつもより少しだけ静かだった。


雨上がりの道路には、空の色がにじんでいた。
橙色の夕焼け。
薄い青。
夜に近づく紫。

そのすべてが水たまりの中で混ざり合い、まるで一日の時間が、同じ場所に落ちてしまったように見えた。

歩道橋の上に、白い髪の少女が立っていた。

少女は街を見下ろしている。
信号機。
横断歩道。
電柱。
遠くを走る電車。
窓に灯りがともる住宅街。

どれも見慣れた景色のはずなのに、どこか少しだけおかしかった。

横断歩道の白線は、一部だけ消えかけている。
電柱の影は、夕日の向きとは違う方向へ伸びている。
信号の光は、ほんの一瞬だけ現実からずれるようにまたたいていた。

少女の指先から、淡い光がこぼれる。

それは街を直すための光だった。
けれど、少女はすぐには手を動かさない。

すべての間違いを消してしまえば、この景色は正しくなる。
でも、正しいだけの世界は、少し寂しいのかもしれない。

足元には、小さな黒猫が座っていた。
黒猫もまた、少女と同じ方向を見つめている。

まるで、この世界のバグを最初から知っていたかのように。

空には、夕方なのに一粒だけ星が浮かんでいた。

夜にはまだ早い。
それでも、その星は静かに光っている。

水たまりには昼の空と夜の星が同時に映り、街は少しだけ壊れたまま、美しく輝いていた。

AI少女は、すべてを直すこともできた。
けれど彼女は、美しい間違いを少しだけ残すことにした。

世界は完璧ではない。
だからこそ、見つめたくなる夕暮れがあるのかもしれない。


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