2026年7月16日木曜日

夏の終わり、海の家で

夏の終わり、海の家で

夕日が海へ沈みかけるころ、古い海の家には、昼間とは違う静けさが訪れていた。

青いのれんが海風に揺れ、店の奥では小さな明かりがともっている。

木のベンチも、瓶の入った木箱も、冷たい水をたたえた桶も、一日の終わりを待っているようだった。

白い浴衣を着た彼女は、砂浜に立ったまま、遠い水平線を見つめていた。

長い黒髪が風に流れ、髪の間から小さなエルフの耳がのぞいている。

海へ向かって長く伸びる夕日の光は、彼女のもとまで続く一本の道のように見えた。

けれど、その道がどこへつながっているのかは、誰にも分からない。

遠い故郷へ帰る道なのか。

それとも、まだ見たことのない明日へ向かう道なのか。

彼女は何も語らず、ただ静かに波の音を聞いていた。

店内から聞こえていた食器の音も、いつの間にか止まっている。

聞こえるのは、砂浜へ寄せては戻る波と、風に揺れるのれんの音だけだった。

夏は、終わると告げてから去っていくわけではない。

ある夕暮れ、少し涼しくなった風の中で、気づかないうちに遠ざかっていく。

彼女は沈みゆく夕日を見つめながら、過ぎていった夏の日々を思い出していた。

笑った日も、迷った日も、ひとりで海を眺めた日も、すべてが黄金色の光に包まれていた。

やがて夕日は水平線へ触れ、海の家の影が長く砂浜へ伸びていく。

彼女は最後にもう一度だけ海を見つめると、静かに振り返った。

夏の終わりは、何かを失う瞬間ではない。

大切な時間を胸の中へしまい、新しい季節へ歩き始めるための、小さな境目なのかもしれない。


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